介護リフォームを行う目的
介護リフォームはケガの予防や自立心の向上、また介護を行う人の負担軽減などの目的で行います。
国民生活センターの「医療機関ネットワーク事業からみた家庭内事故ー高齢者編ー」によると、高齢者の転倒事故の7割は自宅で発生しています。
自宅で利用者が移動しやすいように段差をなくしたり、手すりを設置するなどの工事を行いより安全な環境を整えることによって、転倒事故のリスクを減らすことができます。
また介護リフォームで利用者が自分でできることを増やすことによって、自立心を向上させる効果もあります。少しでも自分でできることが増えると、介護を行う人の負担を減らすことにもつながります。
このように、介護リフォームは利用者だけでなく介護を行う立場の人のための工事でもあります。
【場所別】介護リフォームの費用
ここでは住宅内の場所別に介護リフォームのポイントをご紹介します。
- 浴室
- トイレ
- 玄関
- 階段
- 寝室や室内全般
浴室
浴室は体を洗う場所ですが、同時に疲れを癒したり、リラックスさせる場所でもあります。利用者によっては浴槽につかるのが難しい場合もありますが、工事を行うことで浴槽に浸かることが可能になる場合もあります。
浴室の介護リフォームの内容は以下の通りです。
内容 | 費用 |
---|---|
手すりの設置 | 2万円~3万円 |
出入口の段差をなくす | 5万円~10万円 |
浴槽を浅くする | 30万円~35万円 |
浴槽内に傾斜をつけたり、浴槽の外にステップを置く | 5,000円~1万円 |
滑りにくい床材にする | 10万円~20万円 |
寒暖差の少ない床材にする(ヒートショック防止) | 5万円~10万円 |
非常ブザーを設置する | 2,000円~5,000円 |
扉を引き戸に替える | 12万円~19万円 |
手すりは出入口、洗い場、浴槽近く、浴槽内に設置するのが一般的です。手すりはL型やI型、また浴槽に挟み込んで設置するタイプもあります。とくに浴槽に入るときは片足になるので不安定になりやすいです。利用者に適切な高さに合わせて設置するようにしましょう。
また昔ながらの和風の浴槽だと高さが約60cmあります。高齢者に適している高さは40cmです。浴槽の3分の1ほどを床に埋め込んだ「半埋め込み式」の浴槽だと高さが低くなるため、浴槽へまたぐ動作がしやすくなります。
ほかにも、一度腰かけてから浴槽に移動できるように縁に座れるような作りの浴槽や別売りの椅子もあります。手すりだけでの動作が難しい場合に適しています。
トイレ
トイレは住宅のなかでも使う頻度の高い箇所です。だからこそ、できるだけ自力で行けるように、また介助がしやすい場所である必要があります。トイレの介護リフォームは以下の通りです。
内容 | 費用 |
---|---|
和式を洋式に変更する | 15万円~60万円 |
引き戸にする | 15万円~20万円 |
手すりを設置する | 3万円~10万円 |
汚れに強い床材にする | 2万円~10万円 |
多機能の便器にする | 20万円~30万円 |
入口の段差をなくす | 2,000円~10万円 |
バリアフリーのトイレの広さは介助を行う場合、幅160cm~180cm×奥行160cm~180cmが理想です。ちなみに、自力で歩ける人と車いすの場合で必要な寸法は異なります。
車いすの場合は、出入口を80cm以上確保するようにしましょう。また出入口で鍵付きのドアを設置すると思いますが、鍵は非常時に外から開けることができるタイプを選ぶと安心です。
トイレで手すりを設置する場所は大きく3箇所です。出入口近くでドアを開閉するための手すり、トイレ内を移動するための手すり、便座で立ったり座ったりするための手すりです。
また専用の車いすを使って、そのまま用を足すことができる便座もあります。動くのが難しい場合はそのような車いすも活用するのも一つの方法です。
ちなみに、トイレまで移動するのが困難な場合、ベッドサイドにトイレを設置することもできます。メーカーによっては給排水のホースを既存の給排水設備につなげることで、水洗トイレを後付けできるタイプもあります。
玄関
玄関は外出時に使用する箇所です。玄関を利用するたびに介助が必要だと、外出自体を躊躇してしまうこともあります。利用者が使いやすい玄関にするようにしましょう。玄関の介護リフォームは以下の通りです。
内容 | 費用 |
---|---|
スロープを設置する | 20万円~30万円 |
電動昇降機を設置する | 18万円~50万円 |
手すりを設置する | 10万円~13万円 |
玄関ドアを引き戸にする | 30万円~50万円 |
センサー式の照明にする | 1箇所につき2万円 |
インターホンをワイヤレスにする※ | 5,000円~3万円 |
※工事費は含んでいません
玄関は介護リフォームでも工事を行うことが多い箇所です。スロープのリフォームは介護保険の補助金の対象になります。玄関だけでなく、出入り用の窓や勝手口などにスロープを設置する場合も対象です。
車いすを利用している場合は、スロープのほかに電動昇降機を設置する方法もあります。電動昇降機は月ごとにレンタルしている業者もあるので、購入予定がない場合は便利です。
またインターホンをワイヤレスにすると、わざわざ玄関先に行かなくても手元で応答できます。最近では外出先でもスマートフォンで応答できるような機能がついているタイプもあるので、活用するのも便利です。
ほかに玄関先はセンサー付きの照明をつけると便利です。センサー付きの照明は埋め込み型だと有資格者の工事が必要になるので2万円ほどかかります。しかし充電式や乾電池式、また既存のコンセントに差し込むだけのタイプだと1,000円~3,000円ほどで購入できるので、気軽に設置することが可能です。
階段
階段は家のなかでも転倒事故が起こりやすい場所です。現在建築基準法で手すりの設置が義務化されていますが、設置されていない場合は転倒防止のためにも設置する必要があります。階段の介護リフォームは以下の通りです。
内容 | 費用 |
---|---|
手すりを設置する | 5万円~15万円 |
滑りにくい床材にする(重ね張り) | 15万円~40万円 |
階段昇降機を設置する | 60万円~120万円 |
段数を増やして緩やかな階段にする | 25万円~45万円 |
階段の転倒で多いのが、階段の踏み外しです。段差がないと思っていたところに階段があると転倒につながります。手すりを設置するときは、階段部分だけにつけるのではなく、少し手前からつけることで階段があることを知らせるといった工夫も必要です。
上がるときも階段よりも長めにつけることで、最後の1歩までしっかりと握ることができます。
また、手すりは体重をかけやすいように前傾姿勢で握れるように高さを調整しましょう。手すりの高さが高いと後方に体重がかかり危険です。手すりは一般的には床から約75cmの高さに設置するのが適切とされていますが、高齢者や利用者が使いやすい高さに合わせることが大切です。
階段の床材の張替は、上から重ね張りする場合と古くなったものを新しく張り替える2つの方法があります。費用を抑えられるのは上から重ね張りする方法です。フローリングだと表面塗装で滑りにくくしている資材もありますが、カーペットやコルクなどの柔らかい資材にするのも効果的です。
階段昇降機は階段部分だけに設置するのではなく、階段の少し先に設置するための支柱を設置します。その部分に床暖房やドアがあると設置が難しい場合があるので、その場合は非固定型の支柱にするといった措置をとることもあります。設置を考えている場合は、設置が可能かどうかまずは相談してみるのもよいでしょう。
階段のリフォームに関してはこちらの記事で詳しく解説しているので、ぜひご参考ください。
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寝室・室内全般
寝室や室内移動の介護リフォームのポイントは以下の通りです。
内容 | 費用 |
---|---|
段差をなくす | 2万円~15万円 |
フローリングにする | 10万円~16万円(6畳) |
廊下に手すりを設置する | 5,000円~7,000円(1m) |
コンセントを低いところに移動させる | 1万2,000円~3万円 |
センサー式の照明を設置する | 1箇所につき2万円 |
扉を引き戸や折れ戸にする | 20万円~36万円 |
照明をリモコン式にする | 3,000円~8,000円 |
段差をなくす工事は敷居をなくす方法や、床をかさ上げする方法、またスロープを設置して段差を解消する方法があります。段差をなくす工事はいずれの工事方法でも介護保険の補助金の対象です。
また車いすの場合、スイッチの位置が高いと照明の切り替えが負担になります。スイッチの場所を変更する工事も効果的ですが、最近はリモコン式の照明も増えているので活用すると便利です。
照明のほかにコンセントの位置も高いと車いすの方にとっては不便です。バリアフリー基準のコンセントの高さは40~60cm、スイッチの高さは90~100cmとなります。使いづらい箇所があれば移動工事をすることも検討しましょう。
扉は引く動作や押す動作のある開き戸だと、開閉のたびに移動する必要があるためバリアフリーには向きません。引き戸や折れ戸だとその場にとどまったまま開閉ができるので、開閉の負担が少ないです。ストッパー付きで自動的にゆっくりと閉まるタイプもあります。
介護保険の補助金を利用できるリフォーム
介護リフォームは、介護保険の補助金制度を利用できます。受け取ることができる最大金額は18万円(1割負担の場合)です。
最大20万円までのリフォーム費用が対象となりますが、所得に応じて20万円のうち1割~3割負担となります。そのため、1割負担の場合で最大18万円の支給を受けることが可能です。
利用できるのは以下のリフォームです。
- 手すりの設置
- 段差の解消
- 床を滑りにくくするための床材の変更(フローリングへの変更も含む)
- 引き戸などへの扉の変更
- 和式トイレから洋式トイレへの変更(もともと洋式でも高さや向き変更工事も対象)
- 上記工事に付随して必要な住宅改修
手すりの設置
玄関、廊下、浴室、トイレ、階段などに設置する場合が該当します。転倒防止や移動を助ける目的で設置する場合が対象です。
手すりの形状に指定はなく、利用者の状態にあわせて手すりの高さや必要な場所を決めます。基本的に連続して途切れることがないように設置しますが、扉付近などは跳ね上げ式にするなども可能です。
段差の解消
玄関(屋外も含む)、廊下、部屋の入口、浴室やトイレの入口などが対象です。床の高さを揃える工事や敷居を低くする工事、スロープを設置する工事が含まれます。昇降機やリフトの設置は対象外となるので注意しましょう。
床を滑りにくくするための床材の変更
滑り防止や移動を円滑にするための床材変更が目的の場合に対象となります。畳からフローリングなどの板材やビニル系床材に変更する場合や、浴室などを滑りにくい床材に変更する場合が対象です。
引き戸などへの扉の変更
開き戸から引き戸などの変更で全体を変更する場合、および一部を変更する場合が対象です。ただし自動ドアに変更する場合は、動力部分の設置にかかる費用は対象外となります。具体的には、引き戸や折れ戸、アコーディオンカーテン等への変更、ドアノブの取替え、重い引き戸から軽い引き戸への変更も含まれます。
和式トイレから洋式トイレへの変更
利用しやすいように和式から洋式への変更が対象です。和式から洋式にするときに、洗浄機能付きや暖房機能がついているものへの変更でも問題ありません。ただし、もともと洋式でこれらの機能をつけるための工事は対象外となります。
ほかにもともと洋式でも利用者が使いやすいように高さを変更したり、向きを変えるといった工事も対象です。
上記工事に付随して必要な住宅改修
手すりを設置する際の下地補強や、段差の解消に伴う給排水設備工事、床材変更の下地補修、扉の変更に伴う柱などの補強、便器変更に伴う床材変更や給排水設備工事などが対象です。上記5つの工事に付随して必要な工事は補助金の対象となります。ただし、トイレの工事でもともと水洗でない場合で水洗への変更工事などは対象外です。
介護保険の適用条件について
介護リフォームで、介護保険の補助金を受け取る条件は以下の3つです。
- 要介護認定で「要支援1~2」または「要介護1~5」に認定されている
- リフォームをする住宅が利用者の被保険者証の住所と一致している
- 利用者が実際に住んでいる(入院中、福祉施設に入居中でない)
注意点として、工事を始める前に市町村に申請する必要があります。工事開始後に申請しても、申請は基本的に通らないので注意しましょう。
また補助対象のリフォーム額は補助金の上限は20万円です(最大18万円の支給)。20万円を超えた分は全額自己負担となります。
原則1人1回20万円までの工事が対象となりますが、20万円までは分割で受け取ることも可能です。
介護リフォームの流れ
介護保険の補助金を受けるためには、まず介護保険の要介護認定を受ける必要があります。その後、ケアマネージャーに相談してリフォームのプランを立てていきます。リフォームまでの流れは以下の通りです。
- 自治体から要介護認定を受ける
- ケアマネージャーに相談しリフォームのプランを作成してもらう
- リフォーム業者を選び、立ち合いや見積もり作成をしてもらい契約する
- 市区町村に一部の申請書を提出する
- 工事
- 工事費をいったん全額支払い
- 市区町村に支給の申請書類を提出する
- 補助金の支給を受ける
上記は償還払いという支給方法で、一度リフォーム費用の全額を業者に払って後から補助金分を受け取る方法です。ほかに受領委任払いという方法があり、こちらは最初から1~3割の費用だけを払って、自治体が残りの7~9割を業者に直接支払うという方法です。
償還払いはあとから支給分戻ってきますが、一度全額を用意する必要があります。受領委任払いを希望する場合は、市区町村と受領委任契約をしている業者を選ぶ必要があるので、事前にケアマネージャーに相談しておきましょう。
まとめ
介護リフォームは、利用者の状態に合わせて工事を行うのが大切です。ケアマネージャーと相談して、必要な工事だけを行うようにしましょう。介護保険の補助金も受けられるので、予算に限りがある場合にもぜひ活用しましょう。
- 介護リフォームは事故防止や自立心の向上、介助者の負担軽減を目的としている
- 場所によって必要なリフォーム内容が異なる
- 介護保険で補助金の支給を受けられる